ロリー・マキロイは11年間という長い月日をかけて、ついに念願のキャリアグランドスラムを実現させた。
彼が4月にマスターズを制して偉業を達成すると、ゴルフファンの関心は必然的に「ゴルフ界で6人しか成し遂げていない功績を挙げたマキロイが、次に何を目標とするのか?」というものに変わっていった。
マキロイにとって幸運だったのが、そのわずか数か月後に世界最古のメジャー、全英オープンが北アイルランド出身の彼の地元ロイヤルポートラッシュで開催されることだった。
「わたしは4月についに高い山の頂点まで登り詰めた。あのようなことをやり遂げた後には、もちろんいったん下山をしなくてはならない。そして新たに登る山を見つけなくてはいけないのだが、ポートラッシュで行われる全英オープンは十分にそれに値する挑戦といえる」
前回ダンルースコースで大会が開催されたのは6年前のこと。68年ぶりに北アイルランドにジ・オープンが戻ってきたときのことだった。その際、多くのゴルフファンが待ち望んでいたのは、おとぎ話のようなヒーローの帰還だった。
16歳の時にコースレコードとなる「61」を叩きだしたポートラッシュで、圧巻の戦いをしてくれるマキロイの姿を想像していたわけだが、実際は初日のスタートホールでいきなりクアドラプルボギーを叩き、終わってみれば「79」。2度目のクラレットジャグの戴冠どころか、“悪夢のような”帰還となった。
代わりに勝利の美酒を味わったのが、マキロイの親友でもあるシェーン・ローリー。イングランドのトミー・フリートウッドに6打差をつけて、自身初となるメジャーを勝ち取ることに成功した。
2019年大会のローリーは3日目、改修されたコースの新たなコースレコードとなる「63」でフィニッシュ。迎えた最終日も躍動して、ついに悲願のメジャータイトルを勝ち取った。
そんな南北アイルランドのファンの期待を背負った二人が、再びクラレット・ジャグを掲げる夢を胸にロイヤルポートラッシュに 戻ってきた。現在ともに好調を維持しており優勝候補に名を連ねるのは間違いないが、一方で近年のジ・オープンは欧州勢にとっては高いハードルとなっている。
ローリー以降、ヨーロッパの選手が全英制覇を成し遂げたことはなく、代わりにコリン・モリカワ、ブライアン・ハーマン、ザンダー・シャウフェレの米国勢3人、そして2022年大会はオーストラリアのキャメロン・スミスが制している。
この傾向は今年も続くのだろうか?現在の世界ランキングナンバーワンのスコッティ・シェフラーを見ればその可能性は高く感じてしまう。5月に全米プロゴルフ選手権を制して自身メジャー3勝目をつかみ取った男は、絶対的な優勝候補筆頭と言えるからだ。
あるいは、オークモントで全米オープンを制して勢いに乗るJ.J.スポーンの存在もある。しかしながら、6年前に2位で終えて辛酸を舐めたトミー・フリートウッドが、ついにメジャー初優勝を飾り、欧州勢受難の時代にピリオドを打つかもしれない。
無論、日本のファンの期待を一身に背負う松山英樹も有力候補の一人。2025年開幕戦のザ・セントリーで優勝して最高の形でスタートを切ったものの、その後は優勝戦線に顔を出す機会は多くはない。とはいえ、2021年のマスターズ王者の爆発力は誰もが知るところ。虎視眈々と日本人初となる、世界最古のメジャーの頂点を目指している。
果たして、勝利の女神は誰に微笑むのだろうか?
一つだけ確実に言えるのは、優勝への近道が「カラミティ・コーナーを制すること」にあるということ。カラミティ(Calamity)を和訳すると“災い”だ。つまり「災難の待っている曲がり角」と呼べる、ロイヤルポートラッシュの最難関ホール。4日間を通じてこの16番ホールを攻略できれば、優勝の可能性がグッと上昇すると言われている。
もちろん、ジ・オープンの醍醐味である悪天候(もしくは好天候にも選手たちは惑わされる)にも打ち勝たなければならないのだが……
コース上でファンが悪天候に苦しめられる一方で、北アイルランドのゴルフファンにとっては雨風が吹き荒れるコンディションも大問題とはいえない。前回のロイヤルポートラッシュ大会には、セントアンドリュース以外で行われた大会としては最大数となる27万8000人ものギャラリーが訪れて、特大の盛り上がりを見せた。
松山以外の日本勢では、阿久津未来也、星野陸也、今平周吾、金谷拓実、河本力が出場する。