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トップに君臨したのはS.シェフラー

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世界ランク1位がチャンピオン・ゴルファー・オブ・ザ・イヤーに輝く


全英オープンをつくるのは自然だが、歴史を構築するのはゴルフレジェンドたちである。

そして新たなチャンピオン・ゴルファー・オブ・ザ・イヤーに輝いたスコッティ・シェフラーも、ゴルフの歴史に残るレジェンドの一人にその名を加えた。

強いメンタル、効率的なパフォーマンス、そして言わずと知れた並外れた技術を駆使して、シェフラーは多くのゴルフファンの記憶に残るパフォーマンスを披露。第153回全英オープン制覇という夢を実現させた。

29歳が達成したのは、ロイヤルポートラッシュGCでの勝利だけではない。フィールドを圧倒的に牛耳り、実際の4打差以上に感じられる形でクラレットジャグを掴み寄せたのである。

例年のジ・オープン最終日は、緊張感やドラマ、そして最後まで続く予測できない展開に満ちている。しかしながら、穏やかな天候のなかで進んだ今年のファイナルラウンドではシェフラーの圧巻のパフォーマンスが、そういった事柄をすべて吹き飛ばしてしまった。

上位争いを企てた彼以外のトッププロたちは、ただただ指をくわえて、世界ランキングナンバーワンの男のプレーを眺めるしかなかった。それほど、今大会のシェフラーのゴルフは突出していた。

レジェンドの仲間入り

この優勝により、シェフラーはすでに獲得していたマスターズの2冠、加えて全米プロゴルフ選手権という、3つのメジャータイトルに全英オープンも加えた。キャリアグランドスラム達成のために彼に残されたのは、全米オープンのみとなったのだ。

現役の世界ランキング1位選手が世界最古のメジャーを制するのは、1986年以降、2人目の快挙。もう一人は、タイガー・ウッズである。ウッズと比較される存在。そう考えれば、現在のシェフラーと言うゴルファーの偉大さがはっきりと分かるのではないか。

加えて、今回の勝利は、まさにウッズのような勝ちっぷりだった。またこれから付け足すスタッツは、毎週シェフラーと戦わなければならないライバルたちは見ない方がいいだろう。ウッズがメジャー初勝利を成し遂げてから4冠目を獲得するまで要した日数は1,197日。奇しくもその数字は、シェフラーが要した日数とまるで同様なのだ。。

そんなスペシャルな男を追いかけた上位陣だが、この日、彼らがトップに近づくことは一度もなかった。ハリス・イングリッシュ、クリス・ゴッターアップ、ウィンダム・クラーク、リー・ハオトン、ロリー・マキロイ、ティレル・ハットン、マシュー・フィッツパトリック。バーディを奪いながら、懸命に首位を走るシェフラーに食い下がろうと試みた。

しかしながら、ギャップを詰められそうになるたびに、シェフラーはギアを一段上げて突き放したのである。万が一、最終日をイーブンパーで終えていたならば、より白熱展開が待ち受けていたかもしれない。だが過去3日間の彼のゴルフを見ていれば、そんなことは絶対にないと誰もが知っていた。

フロントナインで4バーディ、バックナインでも1バーディを奪取して、ライバルたちが育てた小さな希望のつぼみをことごとく摘んでいったのである。無論、シェフラーとウッズはまるで違った性格の持ち主だ。しかし、優勝トロフィーを入れるキャビネットのスペースは、ウッズ同様の速さで少なくなっているのは確かなことだ。

ゴルフ界には、これまでにも圧倒的な存在感を持ち、勝つことが当たり前のことのように感じられる選手が存在してきた。だがシェフラーの卓越したテクニック、創造力、才能はその上をいくかもしれない。十分に一見の価値があり、見る者にとって大きな喜びとなる。それがシェフラーの現状である。

ホールアウト後、新王者は「とても特別な気持ちだよ」と率直な感想を述べて、こう続けた。「幼いころは、早起きして全英オープンをテレビで見ていた。それが、今はこうしてトロフィーを手にしているのだから」。

「今週は素晴らしい1週間となった。ロイヤルポートラッシュでのゴルフは最高に楽しかったし、コースも最高のコンディションだった。(2019年王者でアイルランド出身の)シェーン(ローリー)と同組でプレーして気づいたけど、ギャラリーからの彼への声援は特別だった」。

堂々のスタートを切る

4打差リードしてスタートしたシェフラーには、今朝から「優勝」の2文字が頭にあったはずだ。緊張の中では、人は意外な行動を引き起こすことや、ミスをする場合もある。そして全英オープン制覇は容易なことではない。たとえそれが、偉大な選手であってもだ。しかしシェフラーは異例なのかもしれない。ダンルースリンクスの穏やかな雰囲気の中で安定したプレーを続け、実に楽しそうにゴルフをしていた。スタートホールからショットが安定し、フェアウェーの中心を正確に捉えた。9番アイアンのアプローチショットも、まるで彼の意志をそのまま表すようだった。ボールはピンそばに収まり、あっさりとバーディを奪って見せたのである。

ゴルフをシンプルに見せる能力に長けており、4番、5番でも1番同様のゴルフを繰り返す。真っすぐなティショット、見事なアプローチ、そしてシンプルに決めるバーディパット、という具合だ。対するライバルたちはバーディを取っても、すぐにボギーを打って後退。例えば同組で回ったリー・ハオトンは、1番でバーディを奪ったが2番と4番でボギーを叩き、ティレル・ハットンも2、5番でスコアを落として、あっさり優勝争いから脱落していった。

ギャラリーの一番のお目当てであるマキロイはムービングサタデーと同様のマジックを使って、一気に巻き返すかもしれないと期待されていた。だが実際には、マキロイは2番でバーディを奪うと高まる感情が抑えきれなくなり、集中力を欠いたようなプレーが目立った。逆にシェフラーは平常心を保ち、目の前の勝負に集中し続けたのである。

一過性のトラブルもすぐに回避

6番にたどり着くころには17アンダーまで伸ばして、2位以下に8アンダー差をつけていた。まるで他を寄せ付けない勢いを維持していたが、8番でまさかのダブルボギーを叩くと、ロイヤルポートラッシュの雰囲気にも一瞬変化が感じられた。「絶対王者でもミスをする」。そういった微妙な空気が漂い、もしかしたら激しい戦いがこれから起こるのはないかと言う期待も募った。

だが、そんなことは起きることなく、翌9番であっさりとバーディを奪ってみせる。シェフラーがふんどしを締めなおしたのに対して、ほかの選手たちはただただ絶望を覚えたのだった。

そのままラウンドは続いて、そしてついに、その瞬間が訪れることになる。普段は感情を表に出さない男だが、18番ホールへ向かう花道を歩く彼に対して、グランドスタンドから送られたスタンディングオベーションに反応する。そう、シェフラーからは涙をぬぐう仕草が見られたのだ。グリーンに到着すると、全員が彼の一挙手一投足に注目。そして、ウィニングパットが決まり、ゴルフファンは新たな覇者を迎え入れ、大歓声を送ることになるのである。

 

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